わかっちゃいるけど。

OLD WOMEN

photo credit: bluestardrop – Andrea Mucelli via photopin cc

通路に2つ並べて出されていた不燃ごみを、部屋に戻してもらうのに10分以上かかりました。
この老婦人が隣に引っ越して来られたのは、2年ほど前のこと。齢の割に社会的な常識を知らない人であることはすぐに分かり、壁伝いに聞こえる騒音や共用スペースの使い方について何度も注意をしました。「もうやらない」と言いながら同じことを繰り返すので、家主からも書面で忠告してもらっていたのですが……。久しぶりに言葉をぶつける(交わすところまでいかない)と、いっそう耳が遠くなり、痴呆がかなり進んでいる様子でした。

どれだけ関わり合いを避けていても、週に一度はヘルパーさんが来て掃除・洗濯をしていることや、介護施設に通っていることくらいはわかります。家族らしき人が出入りするのを見かけたこともありますが、家主の話ではこの老婦人、哀しい身の上らしい。
「自宅を建て替えるから、工事の間の仮住まいとしてしばらく住まわせてほしいという話だったのに。足の悪い婆さんをエレベーターのないアパートの2階に置いたまま、いつまでたっても引き取りにこないってのは、そういうことでしょうよ」
──婆さんは病院に入るまでここを動かないわよ。我慢できないなら、あなた、別の部屋を探してちょうだい。
鼻の穴を膨らませて憎々しげに話す家主は、暗にそう言っていました。


わかっちゃいるけど、この高齢化時代、転居して状況が悪化する可能性もある。
昨年の秋、神奈川県下最大級の特別養護老人ホームを運営する法人を取材をした時、入居待ちをしている高齢者は1,000名以上いると聞きました。特老の入居者は基本的に健康を取り戻して退居することはないので、入居がかなわずに亡くなってしまうケースも多いといいます。

それでも、高齢者人口(65歳以上)はどんどん増えていき、総務省の推計では2055年には高齢化率が40%を超えます。推計といってもこれは決定事項で、今から未来を変えることは不可能です。
そんな時代に対応するため、政府は社会保障と税の一体改革に取り組んでいて(25年8月法案成立)、この方針通りに事が進めば、「施設から地域へ」、「医療から介護へ」の流れが加速していきます。
これは簡単に言えば、地域全体で高齢者をケアしましょう、ということ。そのためには通所型のグループホームやケア付き高齢者賃貸住宅など、医療機関と連携できる施設の充実を図ることが急務で、当然、24時間対応の介護・看護サービスを提供できる人材も必要になります。

とはいえ、すべての高齢者がこの枠組のなかで生活できるわけではないでしょう。もしかすると、最低限のケアサービスを受けることすらままならない独居老人があふれているかもしれません。そんな未来に向かっている今、隣の老婦人のような高齢者との関わりを避けて生きていこうと思えば、生活のレベルを上げるしかありません。現状と同等の条件で転居先を探したところで、同じようなことでストレスを感じるのは目に見えています。

家賃で言えば、4万円。そのくらい上乗せしないと景色は変わらないだろうな……。それだけ払えるなら分譲マンションを買えるじゃないのって話ですけど、東京に根を張って暮らしている自分というのも想像できませんし。
はあ。とりあえず、カーテンでも換えてみようか……。

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