毒を吐くなら

毒を吐くなら
暑さから逃れようと立ち寄った駅前のカフェ。
アイスコーヒーを飲みながら読みかけの小説を開いたものの集中できず、うとうとしていると隣のテーブル席の会話が耳に入ってきました。

「―――毒を吐くのは勝手だけど、あんなところに会社の内情や仲間の悪口を書く奴がまだいるとは思わなかったよ。しかも実名で」

「タナカとかヤマダならまだしも、あいつは珍名ですからね。プロフ見りゃ、うちの会社のやつだってピンときますよ」

「なかみはペラペラだったけどな。先輩やべー。支店長うぜー。客うるせー。あとなんだっけ。あちー、さみー、か(笑)」

「非公開にしておかないとフォロワーじゃなくても読めるって知らなかったんですかね」

淡いブルーの作業着の胸元を開けている男性ふたり。エンジニアリングサービス系企業の技術者のようだ。話題にのぼっているのは、どうやらツイッターのことらしい。

ツイッター。僕のアカウントはBlogの体裁を保つために残しているだけで、もはやログインすることもないですが……飲食店やコンビニのスタッフによる不衛生かつ非常識なツイートが連鎖して「バカ発見器」と呼ばれてから、もうずいぶん経った気がします。

「そのへんのことは高校生だって知ってんじゃないの。物心ついた時にはネット環境があって、いろんなツールを使ってきた世代なのにこうなるってのは、何も学んでこなかったってことだよな。ウチの人事もどうしてそんなのを採るかねー。記念すべき新卒一期生なのによー」

「新人研修でも資料を用意して説明したらしいですけどね、ソーシャルとのつきあい方を間違えるなよって。カチョーの知り合いの居酒屋が、バイトのつぶやきが原因で客が激減したとかで、念入りにやるって言ってましたもん」

「その結果がこれかよー……泣けるね」

「お客さんに指摘されて判明したってのがまずいっすよね。面目ないってかんじ」

「でもよ、お客さんはどうやってあいつのツイートにたどり着いたんだ?」

「検索したんじゃないですか。名前で。名刺は渡しているでしょうし」

「なんで検索なんかすんだよ。仕事ぶりがよほど頼りなかったとか、挙動不審だったとか?」

「あの会社の担当者、女性じゃないですか。あいつ、バカだけど悪い奴じゃないし、イケメンの部類ですから、興味があったのかもしれませんよ。僕だって仕事先で会った人が可愛いかったら、とりあえずググっときますから」

「……ググってどうすんだよ」

「写真の一枚でも拾えたら、ラッキーかなと」

「それだけか」

「それだけです」

ほんとかよー、と言いながら先輩らしき人がトレイを持って席を立ったので話はそこまで。彼らの会社の新人の現状を知る機会は、おそらくありません。

人手不足が叫ばれる昨今。案外、厳重注意くらいで済んでいるかもしれませんが、ちいさな会社なら居場所がなくなって当然の所業。おおめに見てくれる経営者はそう多くはないと思います。
ここ数年でお話を伺った経営者や人事担当者の言葉を借りれば「想像力が欠如している」ということですかね。「もしも」をつけて考えられない。

プロフに金融会社勤務と明記しているユーザーが「オフィスビルのキッチンにゴキ出た!」と実名で書いたところで「だからどうした」って話でしょうけど、勤務先の飲食店や食品工場が特定できる投稿を続けてきた人が、たとえ匿名であってもそんなことを書けば、何事もなく、というわけにはいかないでしょう。衛生面に問題あり、ということになり、事と次第によっては自分ひとりすべてを無くすだけではすまないことくらい、社会人経験が浅くても分かりそうなものですけどね。
つぶやきがお好きな方は、どうかお気をつけて。毒を吐くなら細心の注意を払い、誤字脱字のチェックも忘れずに。

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