「もう若くないから、新しいことが覚えられません」なんて、絶対に言わない!という気構えができる本。
50歳の大台が近づいてきて、仕事で大きな挑戦ができるのはせいぜいあと一回。そう考えたときに、不安を感じたのは頭のこと―――脳のはたらきと機能についてでした。もの書きはテストの成績が良くなくても務まりますが、頭を使う仕事ですので、この先、加齢によって記憶力や理解力が低下するのなら、挑戦どころではなく、別の道を考えなくてはなりません。
そこで、タイトルにすがるように手に取ったのが2002年に発行されたこの本。『海馬 脳は疲れない』です。
構成は、コピーライターで近年は『ほぼ日刊イトイ新聞』主宰者として活動されている糸井重里さんと、東京大学薬学部助手(当時/現在は東京大学・大学院薬学系研究科・教授)の池谷裕二さんとの対談。脳のはたらきについての素朴な疑問を糸井さんが投げかけ、池谷さんがユーモアを交えて答えるという形で進んでいきます。
海馬(かいば)は記憶を司る部位で、哺乳類の中枢神経系のなかでももっとも詳しく研究されている脳領域の一つ。それだけ魅力に満ちているということであり、僕は最初の数行で引きこまれました。
池谷 「最近もの忘れがひどいんです」という話を良く聞きます。「もうこの年齢だから脳を鍛えるといっても限界がありますよ」という話もよく聞きます。だけど、ほんとうはそんなことはないんです。その誤解を解くだけでも、ずいぶん違うのではないかなぁと思っています。
そして、第一章を読み終えた時、生きる希望を与えてもらった気がしました。
第一章「脳の導火線」のまとめ(抜粋)
「もの忘れがひどい」は勘違い
「年を取ったからもの忘れをする」は科学的には間違いです。脳の力を引き出すためには、老化を気にするよりも「子供のような新鮮な視点で世界を見られるか」を意識することのほうが、ずっと大切なのです。
ストッパーをはずすと成長できる
人間の体は、ある方向へのエネルギー注入を止めることで、他方向へのエネルギー注入を増やすようにできています。脳もまた同じです。「できないかもしれない」と心配するストッパーをはずさないことには、無意識のうちに能力にブレーキをかけてしまいます。一見「無理だ」と思えることでも気持ちにストッパーをかけずにやり続けてみると、あなたの能力は飛躍的に向上することでしょう。
三十歳を過ぎてから頭はよくなる
あらゆる発見やクリエイティブのもとである「あるものとあるものとのあいだにつながりを感じる能力」は三十歳を超えた時から飛躍的に伸びるのです。
脳は疲れない
脳はいつでも元気いっぱいです。ぜんぜん疲れません。寝ているあいだも脳は動き続けます。一生使い続けても疲れません。「脳が疲れたなぁ」と思わず言いたくなるときでも、実際に疲れているのは「目」です。
何才になっても頭はよくなる!
そして第二章「海馬は増える」、第三章「脳に効く薬」、第四章「やりすぎが天才をつくる」と続きます。宮崎駿と手塚治虫についての話もよかったですが、新しい視点をひとつ増やせばそこから考え方の組み合わせを増やしていけるので、何才になっても頭はよくなる、という話に奮い立ちました。
脳と睡眠の関係のついても詳しく記述されていて、僕はこれを読んでから、眠るまでに脳をフル回転させて形にした原稿の推敲を起床後に行うようになりました。
新しいものを生み出すことに情熱を注げば
もちろん、これは、脳が健康な状態であればの話(池谷さんは本書のかなり早い段階で前置きされています)。認知症のような病気がよくなる可能性について論じている本ではなく、予防法も書いていません。ただ、新しいものを生み出すことに情熱を注いで、マンネリを打破するための工夫を続けていれば、25年後の2035年、445万人にまで増加していると予測されている認知症を回避できるかもしれないと思っています。 「もう若くないから、新しいことが覚えられません」なんて、絶対に言いませんよ、僕は。
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